2026年8月、AIを相手取った新規提訴4件を裁判所記録で確認する
2026年8月、Anthropic・Suno・OpenAI・Microsoftを相手取った著作権訴訟が相次いで新規提訴されました。Round Hill Music対Anthropic/Suno、wikiHow対OpenAI、教科書著者対OpenAI/Microsoftの3件と、フロリダ州対OpenAIの管轄争いを、実際の訴状・裁判所記録で確認しました。

目次
2026年8月27日時点の情報です。 2026年8月だけで、AI企業を相手取った著作権・消費者保護関連の新規訴訟が複数、米連邦地裁に提起されました。ここでは、裁判所のドケット・訴状原文をCourtListener/PACER経由で実際に確認できた4件を、事件番号・提訴日つきでまとめます。個別記事にするには一つ一つがやや粒度の細かい話題ですが、まとめて見ると「2026年8月のAI法務の空気」が読めます。
3行まとめ
- Round Hill Music(音楽出版社)がAnthropicとSunoをそれぞれ8月17日に提訴。wikiHowが8月21日にOpenAIを提訴(1,211件の登録著作権・11,211記事が対象と訴状に明記)
- 教科書著者6名+出版社1社が8月14日、OpenAI・Microsoftを相手に集団訴訟。LibGenなど「シャドウライブラリ」経由での学習を主張
- フロリダ州司法長官対OpenAI・Altmanの管轄争いは、7月10日提出の州側の連邦地裁からの差戻し(remand)申立てが7月31日に完全に主張し尽くされ、8月27日時点でも判断待ちの状態が続く
1. Round Hill Music、AnthropicとSunoを別々に提訴(8月17日)
音楽出版・原盤権を保有するRound Hill Music LPほか関連ファンド(GFP Co-Invest, LP/RH Carlin Holdings LLC/Round Hill Music Royalty Fund II・III・III Plusなど)は、2026年8月17日、Anthropic PBCとSuno, Inc.をそれぞれ別の訴訟としてカリフォルニア北部地区連邦地裁に提起しました。
- Round Hill Music LP v. Anthropic PBC(Case No. 5:26-cv-08505)
- Round Hill Music LP v. Suno, Inc.(Case No. 5:26-cv-08507)— こちらはデータ収集企業のBright Data Ltd./Bright Data Inc.も共同被告
CourtListenerのドケット情報によると、訴因は「17:101 Copyright Infringement」。訴状の表題は「著作権直接侵害、保護手段の回避、著作権管理情報(CMI)の削除・改変についての訴え」で、陪審裁判を要求しています(訴状本文の訴因は DIRECT COPYRIGHT INFRINGEMENT / CIRCUMVENTION OF PROTECTION MEASURES §1201 / REMOVAL OR ALTERATION OF CMI §1202 の3つで、寄与侵害(contributory)の訴因は含まれていません)。提出手数料405ドル、原告代理人はRichard Busch弁護士。Anthropic側は8月25日付で送達を放棄(waiver of service)しており、答弁期限は2026年10月26日です。
なお、Round Hill Musicは音楽出版大手Concord Music GroupがAnthropicを訴えた既存訴訟(2024年6月提起)とは別の原告・別の事件で、当サイトが以前扱ったBartz v. Anthropicの著作権和解(Anthropicが別件で15億ドルの和解に応じた件)とも異なる新規の訴訟です。
2. wikiHow、OpenAIを著作権侵害で提訴(8月21日)
ハウツー記事サイトwikiHow, Inc.は2026年8月21日、ニューヨーク南部地区連邦地裁にOpenAI, Inc.ほかOpenAI関連法人9社を提訴しました(Case No. 1:26-cv-07171)。訴状原文(42頁)を実際に読んで確認したところ、次の主張がありました。
wikiHow owns 1,211 registered copyrights covering the 11,211 articles at issue in this action
(wikiHowは、本訴訟で問題となっている11,211本の記事をカバーする1,211件の登録著作権を保有している)
訴状は「wikiHowは20年以上にわたり専門家検証済みのハウツー記事を50万本以上公開し、ピーク時には月1億5,000万人以上が訪問していた」とした上で、「OpenAIはライセンスも対価の支払いもなくこのライブラリを取り込み、ChatGPTを構築・運営する道具にした」と主張しています。訴状によれば、OpenAIのクローラーは2025年5月以降だけでwikiHowのサイトに30万回以上アクセスしたとしています。請求としては、著作権法504条(c)に基づく法定損害賠償(故意侵害の場合は1作品あたり最大15万ドルの増額賠償)、差止命令、弁護士費用等を求めています。
「ハウツー記事を専門家が書いて公開する」というwikiHowのビジネスモデルは、当サイトのようなAI解説メディアとも近い構造です。生成AIが検索の代わりに直接答えを返すようになったことで、情報サイトへの訪問が奪われるという主張の骨格は、記事を書く仕事をしている人には他人事に見えない論点です。
3. 教科書著者6名がOpenAI・Microsoftを提訴(8月14日)
Michael Sullivan氏ら教科書著者6名・出版関連法人1社が2026年8月14日、ニューヨーク南部地区連邦地裁にOpenAI関連法人9社とMicrosoft Corporationを被告として集団訴訟を提起しました(Case No. 1:26-cv-06966)。訴状原文を確認したところ、次の主張が中心です。
Without license, consent, credit, or compensation to the textbook authors, Defendants obtained Plaintiffs' and the Class's copyrighted textbooks from pirated "shadow library" sources, reproduced them, distributed them to others, removed copyright-management information from them, and used them to train their LLM.
(ライセンスも同意も、著作者表示も対価も一切なく、被告らは原告および集団構成員の著作権保護された教科書を、海賊版の「シャドウライブラリ」から取得し、複製し、他者に配布し、著作権管理情報を削除した上で、大規模言語モデルの学習に使用した)
訴状は、被告が「LibGen」(大量の海賊版書籍を提供する反復配布サイト)から取得したタイトルを、自社の書籍コレクションと突き合わせていたと主張しています。原告にはPearson系の教科書著者を含む6名の個人と法人1社(Lion Den Inc.)が名を連ねています。
4. フロリダ州対OpenAI・Altman、管轄をめぐる争いは膠着中
フロリダ州司法長官(Department of Legal Affairs)は、OpenAIとSam Altman氏を相手取り、フロリダ州フロリダ州第10巡回裁判所(Highlands County)に州法上の訴えを提起していました。被告側は2026年7月2日、これを連邦地裁フロリダ南部地区に移送(removal)しています(Case No. 2:26-cv-14238)。
移送先の連邦地裁ドケットを実際に確認したところ、州側は7月10日に「州裁判所への差戻し(remand)」を求める申立てを提出済みで、OpenAI側の反対意見書が7月24日、州側の再反論が7月31日に提出され、争点は8月27日時点でも裁判所の判断待ちの状態が続いています(8月20日・23日には別件でページ数超過の許可申請とその決定があったのみで、remand自体への判断はまだ出ていません)。
州側の申立書(Motion to Remand)を実際に読んだところ、この訴訟の実体はフロリダ州の消費者保護法である**フロリダ欺瞞的・不公正取引慣行法(FDUTPA)**に基づく計10件の州法上の請求で、「OpenAIが自社のAI製品をフロリダで安全だと謳いながら、実際にはそうでないことを知っていた、または知るべきだった」「13歳未満の子どもから、年齢確認や関門機能なしに情報を収集していた」といった主張が中心です。申立書によれば、州側はこのうち1件(Count IV)が児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)違反を不公正な行為の一類型として引用している点だけを理由に、OpenAI側が事件全体を連邦裁判所へ移送したと主張し、「州側はCOPPA自体を訴訟原因として主張しておらず、連邦法上の請求権も明示的に放棄している」として、移送の妥当性を争っています。
4件のうち1件は移送申立書までしか読めていない
- 4件のうち、Round Hill Music対Anthropic/Suno、Twitch集団訴訟(別記事)、Babylon Bee対ニューメキシコ州(別記事)は訴状原文まで確認できましたが、フロリダ州対OpenAIについては移送申立書(Motion to Remand)は読んだものの、州側の訴状本体(Highlands County提出の元の訴状)は本記事では未確認です。
- 「1社あたり最大10億ドル」「和解しない方針」といった一部報道の数字は、Round Hill Musicの訴状本文では確認できませんでした。本記事ではこの金額には触れていません。
- フロリダ州対OpenAIの訴訟類型について、一部報道は「公的不法妨害(public nuisance)」の枠組みで説明していましたが、実際に移送申立書を読んだ限り、訴訟の中心はフロリダ州FDUTPA(消費者保護法)に基づく請求でした。報道の要約と裁判所記録の間にズレがあったため、本記事は裁判所記録を優先しています。
- いずれの訴訟も提訴・移送申立ての段階であり、被告側の実体的な反論や裁判所の判断はまだ出ていません。今後の展開次第で結論が変わる可能性があります。
Round Hill・wikiHow・Sullivan・フロリダ州、4訴訟の一次資料
- Round Hill Music LP v. Anthropic PBC / v. Suno, Inc.(CourtListener検索結果・2026年8月17日提訴)
- wikiHow, Inc. v. OpenAI, Inc. 訴状原文(PDF・2026年8月21日提訴)
- Sullivan v. OpenAI Foundation 訴状原文(PDF・2026年8月14日提訴)
- Office of the Attorney General, State of Florida v. Altman 移送先ドケットおよびMotion to Remand(PDF・2026年7月10日提出)
関連記事: Bartz v. Anthropicの著作権和解(15億ドル) / 米42州司法長官によるOpenAI召喚状 / OpenAI、Appleを営業秘密侵害で提訴された件
感想・指摘はコメント欄へ。各訴訟の判断が出れば続報します。
出典・参照資料
- 二次資料Round Hill Music LP v. Anthropic PBC 訴状(Case No. 5:26-cv-08505, N.D. Cal., filed 2026-08-17) ↗
- 二次資料wikiHow, Inc. v. OpenAI, Inc. 訴状(Case No. 1:26-cv-07171, S.D.N.Y., filed 2026-08-21) ↗
- 二次資料Sullivan v. OpenAI Foundation 訴状(Case No. 1:26-cv-06966, S.D.N.Y., filed 2026-08-14) ↗
- 二次資料Office of the AG, State of Florida v. Altman 移送先ドケット(Case No. 2:26-cv-14238, S.D. Fla.) ↗
更新・訂正履歴
- 2点を訂正。(1)Round Hill Music対Anthropicの訴状の表題に「寄与侵害」を含めていたが、訴状PDF(CourtListenerの原本、2026-09-11にpdftotextで全26頁を確認)の訴因は DIRECT COPYRIGHT INFRINGEMENT、CIRCUMVENTION OF PROTECTION MEASURES 17 U.S.C. 1201、REMOVAL OR ALTERATION OF CMI 17 U.S.C. 1202 の3つのみで、contributory も vicarious も0件だった。CourtListenerのドケット記述にも寄与侵害の文言は無い。訴因を訴状どおりに直した。(2)wikiHowの訴状からの直接引用の中で社名を wikiHou と綴っていたが、訴状原文は wikiHow。鍵括弧つきの逐語引用の中の誤字だったため訂正した。
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