IETFで『AIエージェント間通信』の提案が乱立し過ぎて、交通整理のためのBOFが承認された──CATALISTを読む
IETFに提出された「CATALIST」(Coordinating Agent To Agent List of efforts)は、直近のIETFミーティングでAIエージェント間通信をめぐるサイドミーティングが乱立し、スケジュールが衝突して参加者が全体を追えなくなっている状況を交通整理するためのBOF提案だ。200人規模の参加を見込むこのBOFは、競合する提案の優劣を決めることも、エンドツーエンドのプロトコルを定義することも明示的に目的としないという。

目次
インターネット標準を策定するIETF(Internet Engineering Task Force)に、AIエージェント間通信をめぐる提案の乱立ぶりそのものを交通整理するためのBOF(Birds of a Feather、正式ワーキンググループ化前の予備会合)提案「CATALIST」が提出され、承認された。IETF Datatrackerで確認できるBOFリクエスト本文によれば、直近のIETFミーティングで開かれたAIエージェント通信関連のサイドミーティングが、通常のIETFアジェンダとスケジュールが衝突するほど増え、参加者が全体を追い切れなくなっていることが動機だという。
3行まとめ
- CATALIST(Coordinating Agent To Agent List of efforts)は、IETF内で乱立するAIエージェント間通信の提案を交通整理するための非ワーキンググループ形成型BOF。ステータスは「Approved(承認済み)」
- 明示的に「競合する提案の優劣を選ばない」「エンドツーエンドのエージェント通信プロトコルを時期尚早に定義しない」ことを目的から除外している
- 想定参加者200人、セッション長2時間。議長はAdrian Farrel氏とYingzhen Qu氏。IESGは調整用に
agent2agent@ietf.orgメーリングリストを新設済み
なぜ必要になったか
BOFリクエスト本文はこう説明する。
Over the last several IETF meetings, there have been numerous side meetings focused on agent-to-agent communications, particularly for AI agents. The scheduling conflicts with regular IETF agendas have made it difficult for participants to follow all of these meetings.
(過去数回のIETFミーティングにわたり、特にAIエージェントを対象とした、エージェント間通信に関する数多くのサイドミーティングが開かれてきた。通常のIETFアジェンダとのスケジュール衝突により、参加者がこれらすべての会合を追うことが困難になっている)
このBOFの目的は4つに整理されている。
Summarize the ecosystem, including work occurring outside the IETF at W3C, 3GPP, and the Linux Foundation. Summarize work occurring in IETF side meetings and progressing on mailing lists. Identify what work could be pursued in the IETF. Identify and share existing IETF working groups that are addressing use cases related to agent communication.
(W3C・3GPP・Linux Foundationなど、IETF外で進む作業も含めたエコシステムの要約。IETFのサイドミーティングやメーリングリストで進行中の作業の要約。IETFで取り組みうる作業の特定。エージェント通信に関連するユースケースに既に取り組んでいる既存のIETFワーキンググループの特定と共有)
「あえてやらないこと」が明記されている
このBOFの性格を最もよく表しているのが、目的から明示的に除外されている項目だ。
CATALIST is explicitly not intended to select between competing proposals, nor to prematurely define any end-to-end agent communication protocols. Instead, the meeting will provide a forum to share information about these efforts and to determine whether any recurring meeting would be useful for coordination purposes.
(CATALISTは、競合する提案の間で選択を行うことも、時期尚早にエンドツーエンドのエージェント通信プロトコルを定義することも、明示的に意図していない。代わりに、この会合はこれらの取り組みについて情報を共有し、調整目的で定期的な会合が有用かどうかを判断するためのフォーラムを提供する)
さらに、既に独自のメーリングリストで動いている個別プロジェクトについても対象外とすることが明記されている。
This BoF is not for AIProto or DMSC, which are evolving on their own mailing lists; it is for discussing the overall ecosystem and the needs of the community.
(このBOFは、それぞれ独自のメーリングリストで発展しているAIProtoやDMSCのためのものではない。エコシステム全体とコミュニティのニーズについて議論するためのものだ)
スコープの線引き——「Net4AI」「AI4Net」は対象外
BOFリクエストは、対象とする範囲を「エージェント間(A2A)通信」に絞り、隣接する2つの領域を明示的にスコープ外としている。1つは「Networking for AI(Net4AI)」——AIワークロードを支えるネットワークインフラの最適化(トラフィックエンジニアリング、計算資源の協調など)で、通常はRTGエリアが扱う領域だという。もう1つは「AI for Networking(AI4Net)」——AI/ML技術を使ってネットワーク運用そのものを管理・最適化する領域で、OPS・NMRG・RTG・INTが通常扱うとされる。
規模と体制
BOFリクエストの「Required Details」欄によれば、想定参加者は200人、セッション長は2時間。責任エリアはART(Applications and Real-Time)で、WIT・SEC・INT・OPS・RTGの各エリアも関心を持つとされる。責任AD(Area Director)はAndy Newton氏、Orie Steele氏、Charles Eckel氏(着任予定)の3名。BOF議長はAdrian Farrel氏とYingzhen Qu氏。提案者としてToerless Eckert氏、Kehan Yao氏、Aijun Wang氏、Suresh Krishnan氏の4名の名前が挙がっている。
コンフリクト(同時間帯に開催される他セッションとの衝突)欄には、TVR・RTG Area Open Meeting・CATS・MPLS・TEASなど非常に多くのワーキンググループ名が並んでおり、「Key Participant Conflict」としてART全域・CATS・IDR・ANIMA・IAB・ANRW・IOTDir・BPF・AICONTROL・AIPrefが挙げられている。これだけの数のグループと参加者が重複しているという記載自体が、AIエージェント通信というテーマがIETF内の多くの既存領域と交差していることを裏付けている。
IESGはこの調整のために、agent2agent@ietf.orgという新しいメーリングリストを既に作成済みだとBOFリクエストは述べている。過去の関連サイドミーティングとして、IETF 123・124での開催が言及されている。
実際にBOFは開催された──2026年3月18日、深圳
IETF Datatrackerの会議資料ページを確認すると、CATALISTのBOFは実際にIETF 125(2026年3月18日9:00〜11:00、深圳)で開催され、議事録が公開されていた。議長は当初の予定通りAdrian Farrel氏とYingzhen Qu氏。アジェンダには6つの取り組みの要約発表が並んでいる。
| 発表 | 発表者 |
|---|---|
| AI Agent Protocols | Cullen Jennings |
| Network architecture for the AI ecosystem | Arashmid Akhavian |
| AI Agent Discovery | Nic Williams |
| AI-Agent Network Requirements and Protocols(ANP) | Kehan Yao |
| Dynamic Multi-agents Secured Collaboration(DMSC) | Aijun Wang |
| Agent Communication Interdomain Protocols(ACIP) | Toerless Eckert |
BOFリクエスト本文は「AIProtoやDMSCのためのものではない」と明記していたが、実際の議事録を見るとDMSCは「対象外の個別プロジェクト」としてではなく、エコシステム全体を要約する6つの発表の1つとして扱われていた。「対象外」というのは、CATALISTの場でDMSCの技術的な中身を決めるわけではない、という意味であり、DMSCの存在自体を紹介することとは別だったと理解できる。
議論では、Discovery(エージェントの発見)の必要性そのものに懐疑的な声も上がった。議事録には、参加者Eric Rescorla氏の発言として「まだユースケースが分からない。ほとんどの人はどうやってそれを発見するのか」という趣旨のチャットコメントが記録されており、既存の仕組み(MCP・DNS・well-known URLなど)で十分ではないかという指摘が複数の参加者から相次いでいる。
会場での投票結果:賛成100・反対43・棄権11
議事録の末尾には、実際に会場で取られた投票の結果が記録されていた。
"Do you think the IETF should have an ongoing AI agent-to-agent coordination activity? yes: 100 no: 43 no op: 11"
(IETFはAIエージェント間の調整活動を継続すべきだと思うか? 賛成:100 反対:43 棄権:11)
議長のAdrian Farrel氏は「継続的な調整活動を持つべきか」と会場に問いかけ、この結果になった。責任AD(Area Director)のAndy Newton氏(ART担当)は、閉会の言葉として「BOFで提起された問いに明確な答えは出なかった。テーマは見えてきているが、IETF内に scoped で焦点を絞ったワーキンググループが収まる余地があるかもしれない」と評している。
IETF Datatrackerの現在のグループページを確認すると、CATALISTのステータスは「BOF Concluded」となっている。正式なワーキンググループへの発足(charter)はまだ確認できず、賛成多数の投票にもかかわらず、この記事の執筆時点では次の具体的な一歩(正式WG化・恒久的な調整枠組みの設置など)はまだ決まっていないようだ。
AIProto・DMSC個別の中身とIETF126以降の動きは追えていない
AIProtoやDMSCなど、このBOFが明示的に「対象外」とした個別プロジェクトの技術的な中身については、本記事では扱っていない。IETF 125以降(IETF 126は議事録内で「7月」という言及があった)に、CATALISTの後継として正式な調整の枠組みが立ち上がったかどうかも、本記事の調査範囲では追えていない。「State: BOF Concluded」という表示は、あくまでこの記事の執筆時点でのDatatrackerのスナップショットであり、今後の状況によって更新される可能性がある。ただし、IESGが新設したagent2agent@ietf.orgのメーリングリスト・アーカイブを確認すると、2026年8月26日・29日時点でも「Simple Agent Management Protocol (SAMP)」や「substrate-provenance-grammar」といったドラフトをめぐる投稿が続いており、正式なワーキンググループ化の有無にかかわらず、議論の場としては動き続けていることが確認できた。この記事を書いている自分自身は、IETFの標準化プロセスや個別のBOFに参加した経験がなく、AIエージェント間通信の標準化がどの程度実務に影響するかを判断する材料は持ち合わせていない。Zenn・Qiitaともに、候補メモの時点で言及は見当たらなかった。
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