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スマート水産業とは──水産庁が進めるICT・IoT活用と、7地域の実証プロジェクト

水産庁は「スマート水産業」を、ICT・IoT等の先端技術で水産資源の持続的利用と産業としての持続的成長を両立させる次世代の水産業と定義している。令和5〜7年度にかけて三重・愛媛・静岡・鹿児島・宮城・大阪・山口の7地域が「デジタル水産業戦略拠点」に選定され、市場業務のデジタル化から遠隔診療システムまで、地域ごとに異なる実証が進んでいる。

スマート水産業とは──水産庁が進めるICT・IoT活用と、7地域の実証プロジェクト
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農業分野の「スマート農業」は聞いたことがあっても、水産版の取り組みは意外と知られていない。水産庁は公式サイトで「スマート水産業」という独立した政策分野を持ち、ICT・IoTなど先端技術を使った水産業の変革を進めている。

3行まとめ

  1. 水産庁は「スマート水産業」を、ICT・IoT等の先端技術で水産資源の持続的利用と産業としての持続的成長を両立させる次世代の水産業と定義。令和5〜7年度にかけて7地域が「デジタル水産業戦略拠点」に選定された。
  2. 選定地域の概要版計画書PDFを2地域分(鹿児島県・気仙沼市)直接開くと、鹿児島県の「AIによる魚種判別機能等を有する自動計量器」や、気仙沼市のJAFIC提供データを使った漁場探索など、公式サイトの一覧表には出てこない具体的なAI・データ活用の中身が確認できた。
  3. 気仙沼市の「遠隔診療」は、公式サイトの一覧表では単独項目のように見えるが、計画書原本では「洋上支援デジタル基盤」という1つのプロジェクトの中の一要素(オンライン診療・機器故障対応・洋上投票の3本柱の1つ)だった。

水産庁の定義

水産庁公式サイト「スマート水産業」ページの冒頭にはこう書かれている。

「ICT、IoT 等の先端技術の活用により、水産資源の持続的利用と水産業の産業としての持続的成長の両立を実現する次世代の水産業」

このページによると、取り組みは大きく4つの柱で構成されている。

  1. スマート水産業の取組の紹介(「スマート水産業の展開について」という資料が公開されている)
  2. ガイドライン・環境整備(データ利活用ガイドライン、データ連携プラットフォームに関するガイダンス)
  3. 研究会・協議会(過去に「水産分野におけるデータ利活用のための環境整備に係る有識者協議会」「水産業の明日を拓くスマート水産業研究会」を開催)
  4. 関連予算・事業(令和2年度から令和8年度当初予算まで、毎年「スマート水産業推進事業」「スマート水産業普及推進事業」等の予算項目が継続して計上されている)

データ利活用ガイドラインの中身

公式ページによると、「水産分野におけるデータ利活用ガイドライン」は、水産分野でのデータの取扱いについて、契約や同意書といった取決めに基づいた提供・利用を啓発する目的で作られている。基本的な事項やデータ取扱いの特徴に加え、データ利活用を進める際に使えるモデル契約書のひな型まで提示されているという。第1版は2022年2月25日から3月26日までパブリックコメントを実施した経緯がある。

「デジタル水産業戦略拠点」──地域ごとの実証プロジェクト

スマート水産業の実装面を担う代表的な事業が「デジタル水産業戦略拠点整備推進事業」だ。水揚げから漁獲物の出荷・流通・消費までの一連の流れにデジタル技術を活用し、地域全体でモデルとなる「デジタル水産業戦略拠点」を作り、その成果を他地域へ横展開する狙いがある。水産庁公式ページで確認できる選定地域と具体的な取組内容は次の通り。

選定年度 地域 具体的な取組内容
令和7年度 三重県南伊勢地域 市場業務のデジタル化
令和7年度 愛媛県愛南地域 市場業務のデジタル化、海洋環境の電子データシステム構築
令和6年度 静岡県焼津地域 市場業務のデジタル化
令和6年度 鹿児島県地域 漁船漁業のスマート化、市場業務のデジタル化、稚うなぎトレーサビリティ、赤潮情報共有ネットワーク構築
令和5年度 宮城県気仙沼地域 遠隔診療システム構築、海況データ共有基盤構築、水産関連情報データ基盤構築、水産DX EXPO実施
令和5年度 大阪府泉州地域 漁獲・漁場情報分析データベース、デジタル市場構想/Web販売システム、浜マルシェ運営・マーケットリサーチ
令和5年度 山口県下関地域 水産版デジタル・バリューチェーンシステムの導入

鹿児島県地域の「稚うなぎトレーサビリティ」や、宮城県気仙沼地域の「遠隔診療システム」など、単なる漁獲量管理を超えて、漁業者の生活インフラに近い領域までデジタル化の対象になっている点が目を引く。

概要版計画書を2地域分開いて分かったこと

水産庁サイトの一覧ページには各地域の取組が数語で要約されているだけだが、実際に鹿児島県・気仙沼市の「概要版」計画書PDF(いずれも水産庁サイトから直接ダウンロード)を開くと、要約からは読み取れない具体性があった。

鹿児島県デジタル水産業推進コンソーシアム(代表: 鹿児島県漁獲情報デジタル化推進協議会 会長・田中敏博氏)の計画書には、次のような具体的な取組が記載されている。

  • 市場業務のデジタル化: 「AIによる魚種判別機能等を有する自動計量器の製作」と「電子入札システムの開発」の2本柱。産地市場の慢性的な人手不足・アナログな計量/競り/入札業務を、AIを載せた自動計量器と電子入札で置き換える構想(計画書の表現は「AIによる魚種判別機能等を有する自動計量器の製作」で、カメラ画像認識という語は使われていない)
  • 稚うなぎトレーサビリティ: 2025年12月(令和7年12月)から適用される水産流通適正化法への対応が主眼。現状では申請書・添付資料の作成年間約1,200人分を紙ベースで処理しており、法適用後は許可証印刷・領収書貼付・ラミネート加工といった事務量が「2倍になる」との見込みが示されている
  • 計画期間は令和6年度から令和11年度以降までの複数年ロードマップとして設計されている

気仙沼市デジタル水産業推進協議会(代表: 気仙沼漁業協同組合 代表理事組合長・齋藤徹夫氏)の計画書は、"VUCA"(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)という言葉を戦略コンセプトに掲げ、8つのプロジェクトで構成されている。

  • R6-1: 洋上支援デジタル基盤: 水産庁一覧表では「遠隔診療システム構築」と要約されている項目の実体は、①オンライン診療、②機関・機器の故障対応/運転管理、③洋上投票・海技士免許の洋上取得、という3本柱からなる1つのプロジェクトだった
  • R7-1: 海洋観測データによる漁業支援システム: JAFIC(一般社団法人漁業情報サービスセンター)が提供する海洋ナビゲータ「エビスくん」の気象・海象情報を活用し、最適航路選択・漁場探索の機能拡張を狙う
  • 気仙沼市の概要版計画書に並ぶプロジェクトは R6-1 から R8-2 までの8件で、AIを名指しした項目は「デジタルハーバーマネジメントシステム」(AISデータ+監視カメラによる港の利用調整)と「水産バリューチェーン情報連携プラットフォーム」(AI/IoTの活用)の2件だった

つまり水産庁サイトの一覧表は、あくまで各地域の取組を数語に圧縮した要約であり、AIを直接使う施策(鹿児島県の魚種判別AI、気仙沼市の港湾管理・バリューチェーン基盤)は一覧表の文言だけでは見えてこない。実際の中身は概要版計画書に降りて初めて確認できた。

「水産分野におけるプラットフォームを通じたデータ利活用に関するガイダンス」

データ利活用ガイドラインとは別に、水産庁は「水産分野におけるプラットフォームを通じたデータ利活用に関するガイダンス」(2023年8月更新)も公開している。こちらは、水産分野でのデータ連携を促進するため、データ連携プラットフォーム(PF)を構築する際に必要な設計や取り決めの参考情報を示す目的で作られたもので、PF構築の基本事項・求められる取り決め・留意事項が整理されているという。個々の漁業者・事業者がバラバラにデータを持つのではなく、地域単位でデータを連携させる基盤づくりを国として後押ししている姿勢がうかがえる。

過去の研究会・協議会

公式ページには、これまで開催された関連の協議会・研究会も記録されている。

  • 水産分野におけるデータ利活用のための環境整備に係る有識者協議会(2020年8月〜2022年12月)
  • 水産業の明日を拓くスマート水産業研究会(2019年5月〜2020年3月)

2019年から始まったスマート水産業研究会を起点に、データ利活用の環境整備、そしてデジタル水産業戦略拠点という実装フェーズへと、5年以上かけて段階的に政策が積み上げられてきた経緯が読み取れる。

事業者マッチングのための一覧公開

水産庁は、水産分野のデジタル化に取り組む事業者と水産事業者とのマッチングを支援するため、「水産分野におけるデジタル化等に取り組む事業者一覧」(2025年6月5日更新の全体版PDF)を公開している。デジタル化に取り組んでいる事業者は、掲載を希望する場合、水産庁の申請フォームから登録できる仕組みになっている。

5地域分のPDF本体は依然として未確認

  • 本記事は水産庁公式サイトの「スマート水産業」「デジタル水産業戦略拠点の取組について」の2ページに加え、鹿児島県・気仙沼市の概要版計画書PDF2件を直接開いて確認した。残る三重・愛媛・静岡・大阪・山口の5地域分の概要版計画書は、本記事では開いておらず、水産庁ページ上の要約記述にとどまる
  • 令和8年度予算「スマート水産業推進事業」「スマート水産業普及推進事業」の具体的な金額は、公式ページ上ではPDFファイルへのリンクのみが提示されており、本記事ではPDFの中身までは確認していない
  • スマート水産業の効果(漁獲量・コスト・労働時間などへの実際の効果測定データ)については、令和6年度水産白書(PDF、28MB超)へのリンクを確認したが、本記事では分量の都合上、該当箇所を特定して読み込むところまでは行っていない。鹿児島県・気仙沼市の計画書内にある「期待される効果」は、いずれも実施前の見込みであり、実績として測定された数値ではない
  • 稚うなぎトレーサビリティに関する「許可証等の事務量が2倍になる」という鹿児島県の見込みは、あくまで同県の計画書内の記述であり、他地域や全国レベルでの影響までは本記事の範囲外

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出典・参照資料

更新・訂正履歴

  • 出典に無い記述を削除して訂正した。気仙沼市の項に「計画スケジュール表には、令和9年度(R9-1)の取組として『AI魚種判別システム実証』も記載されている」と書いていたが、気仙沼市の概要版計画書PDF(jfa.maff.go.jp/j/kikaku/digital_suisangyo/attach/pdf/index-30.pdf)を取得し直して全文を検索すると、R9 も 判別 も0件で、プロジェクトは R6-1 から R8-2 までの8件で完結していた。AIによる魚種判別は鹿児島県側の計画書(index-34.pdf)の「市場業務のデジタル化」にある「AIによる魚種判別機能等を有する自動計量器の製作」で、別地域の項目を気仙沼市のものとして書いていた。該当行を実際の記載(気仙沼市でAIを名指しした項目はデジタルハーバーマネジメントとバリューチェーン基盤の2件)に差し替え、3行まとめと本文の対応も直した。あわせて、原文にない「カメラ画像認識」という言い換えも計画書の表現に戻した。

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