「2025/26年に大学卒業生を上回る」は当たったか──元OpenAI研究員の「Situational Awareness」を原文で読む
元OpenAI研究員レオポルド・アッシェンブレナーが2024年6月に発表したエッセイ「Situational Awareness」は、2025/26年にAIが多くの大学卒業生を上回り、2027年までにAGIが到達すると予測した。原文の該当箇所を確認し、2026年8月27日時点の状況と照らし合わせる。

目次
「2025/26年までに、これらの機械は多くの大学卒業生を上回るペースになる」──元OpenAI研究員レオポルド・アッシェンブレナーが2024年6月に発表した長編エッセイ「SITUATIONAL AWARENESS: The Decade Ahead」の一節だ。公開から2年余りが経ち、まさにその「2025/26年」の只中にいる2026年8月、原文を確認しながらこの予測の中身を整理する。
3行まとめ
- 「2025/26年に大学卒業生を上回る」という予測は、GPT-2(未就学児)→GPT-3(小学生)→GPT-4(賢い高校生)という発達段階アナロジーを延長したもので、定量的な達成基準は本文中に明示されていない
- 第IIIa部は学習クラスタの規模を「2022年のGPT-4クラスタ ~10MW → 2024年 ~100MW → 2026年 ~1GW(数百億ドル)→ 2028年 ~10GW(数千億ドル)→ 2030年 ~100GW(1兆ドル超・米電力生産の20%超)」と、2年ごとに1桁ずつ上がる形で予測している。2026年時点でこの通りに進んでいるかは本記事では検証していない
- 著者自身が「誤差の範囲は大きい」「unhobblingが期待通り進まなければ、専門家並みの同僚ではなく単なる専門家チャットボットどまりになりうる」と自ら留保を付けている
エッセイの構成と著者
エッセイは序章と5部構成(I〜V)からなる。著者アッシェンブレナーは文末で「私はかつてOpenAIで働いていた」と明記しており、「本稿の内容はすべて公開情報、自分自身の考え、一般的な分野知識、あるいはサンフランシスコでのゴシップに基づく」と断っている。イリヤ・サツケヴァー(OpenAI共同創業者)に捧げる、という献辞も付いている。
| 部 | タイトル | 要旨(原文の要約部より) |
|---|---|---|
| I | From GPT-4 to AGI: Counting the OOMs | 2027年までのAGIは十分にありうる。GPT-2からGPT-4への進化が就学前児童から高校生への進化に相当したのと同様の質的飛躍が、計算資源・アルゴリズム効率・「unhobbling」(制約解除)の3つのトレンド線から2027年までに再び起こると予想される |
| II | From AGI to Superintelligence: the Intelligence Explosion | AIの進歩は人間レベルで止まらない。数億のAGIがAI研究を自動化すれば、10年分のアルゴリズム進歩(5+ OOM)を1年以内に圧縮できる可能性がある |
| IIIa | Racing to the Trillion-Dollar Cluster | 数兆ドル規模の資金がGPU・データセンター・電力インフラに投入される |
| IIIb | Lock Down the Labs: Security for AGI | 主要AI研究機関のセキュリティは後回しにされており、国家主体の脅威に対する備えが不十分 |
| IIIc | Superalignment | 人間よりはるかに賢いAIシステムを確実に制御する技術的問題は未解決 |
| IIId | The Free World Must Prevail | 超知能は決定的な経済的・軍事的優位をもたらす |
| IV | The Project | 国家安全保障上の関与が強まり、政府主導のAGIプロジェクトが立ち上がる |
| V | Parting Thoughts | 「もし我々が正しかったら」という問いかけ |
「2025/26年」という予測の原文
序章に書かれている該当箇所を訳すと次の通りだ。「我々は、考え、推論できる機械を作っている。2025/26年までに、これらの機械は多くの大学卒業生を上回るペースになるだろう。10年の終わりまでには、あなたや私より賢くなり、真の意味での超知能を手にすることになる」。この一文は「AGIレースは始まった」という宣言に続けて書かれている。
「多くの大学卒業生を上回る」が具体的にどのタスク・どの測定方法を指すのかを確認するため、第I部「From GPT-4 to AGI: Counting the OOMs」の本文を読んだ。この部の主張は、統計的な予測というより「これまでの進化の飛躍を、人間の発達段階になぞらえて延長する」というアナロジーに基づいている。原文が示す対応関係は次の通りだ。
| モデル(発表年) | エッセイが例える発達段階 | 原文が挙げる根拠 |
|---|---|---|
| GPT-2(2019) | 未就学児(preschooler) | 「かろうじて数語をつなげられる」レベル。5まで数えるのもたまに間違えた |
| GPT-3(2020) | 小学生(elementary schooler) | 基本的な詩を書き、複数段落にわたって一貫した文章を書けるようになった |
| GPT-3.5 | (中間段階) | GPT-4への1年間の飛躍で、標準テストの成績が「人間の中央値を大きく下回る」水準から「人間の上位」水準へ跳躍したと記述 |
| GPT-4(2023) | 賢い高校生(smart high-schooler) | AP試験・SATで大多数の高校生を上回る成績。高度なコードを書き、複雑な話題について論理的に書ける |
この表からの外挿として、原文は「今後4年間で、計算資源(~0.5 OOM/年)・アルゴリズム効率(~0.5 OOM/年)・『unhobbling』(制約解除、チャットボットからエージェントへの転換)という3つのトレンドラインを合わせて、GPT-2からGPT-4への飛躍に匹敵する、もう一段の質的飛躍が起こる」と主張し、その次の段階を「PhD・専門家並みに賢く、同僚として働けるレベル」と表現している。「2025/26年に多くの大学卒業生を上回る」という一文は、この発達段階アナロジーの延長線上にある主張であり、特定のベンチマークで何%上回ったら達成、という定量的な基準は本文中には示されていなかった。
「知能爆発」という言葉の使われ方
エッセイ第II部の要約は「AIの進歩は人間レベルで止まらない。数億のAGIがAI研究を自動化すれば、10年分のアルゴリズム進歩を1年以内に圧縮しうる。人間レベルから、はるかに超人的なAIシステムへと急速に移行することになる」と述べている。この「知能爆発(Intelligence Explosion)」という言葉自体は、1965年のI.J.Goodの論文(AGI(汎用人工知能)とは何かで扱った「人類最後の発明」の出どころ)に遡る概念で、アッシェンブレナーはこれを2024年時点の技術的文脈(AI研究者そのものをAIが代替する)で再定式化している。
「1兆ドルのクラスタ」という計算資源予測
第IIIa部「Racing to the Trillion-Dollar Cluster」の本文も確認した。ここでは学習用計算クラスタの規模拡大について、具体的な数字で予測を並べている。
原文の表は、年・OOM・H100換算基数・コスト・電力・電力の比較対象を並べた5行構成になっている。
| 年 | OOM | H100換算 | コスト | 電力 | 電力の比較対象 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2022(GPT-4クラスタ) | ― | 約1万基 | 約5億ドル | 約10MW | 平均的な住宅1万戸 |
| 2026年ごろ | +2 OOMs | 約100万基 | 数百億ドル | 約1GW | フーバーダム、または大型原子炉1基 |
| 2028年ごろ | +3 OOMs | 約1,000万基 | 数千億ドル | 約10GW | 米国の中小規模の州1つ |
| 2030年ごろ | +4 OOMs | 約1億基 | 1兆ドル超 | 約100GW | 米国の総電力生産の20%超 |
(2024年ごろの行〈+1 OOM・約10万基・数十億ドル・約100MW・住宅10万戸〉は紙幅の都合で省いた。原文には載っている)
つまり「1兆ドルのクラスタ」は2030年ごろの100GW級クラスタを指しており、GPT-4クラスタから+4桁(OOM)にあたる。原文は「単なるGPUの倉庫ではなく、何百もの発電所を想像してほしい」と表現している。
原文は「クウェートで1GW・H100換算140万基相当のクラスタ(~2026年クラスタ)が建設されていると噂されている(Rumors suggest)」とも述べている(原文で「メディアが報じている(Media report)」と書かれているのは、その次の文のMicrosoftとOpenAIによる1,000億ドル級クラスタ〈2028年予定〉のほうである)。ただしこれはこれは2024年時点の原文が引用した報道であり、本記事ではこの報道の真偽・その後の進捗を独自に検証していない。2026年8月の本記事執筆時点で、このエッセイが予測した「10GW・1,000億ドル級クラスタ」が実際に稼働しているかどうかについても、本記事では確認していない。
「国家安全保障化」という主張
このエッセイが他の技術系エッセイと一線を画すのは、第III部・第IV部で国家安全保障・地政学の話に大きく踏み込んでいる点だ。「現在の主要AI研究機関は、セキュリティを後回しにしている。事実上、AGIの重要機密を中国共産党に銀の皿に載せて渡しているようなものだ」「超知能は決定的な経済的・軍事的優位をもたらす。中国はまだこのゲームから脱落していない」「27/28年までに、何らかの形の政府主導AGIプロジェクトが立ち上がるだろう」といった、かなり踏み込んだ主張が並ぶ。これらは著者個人の見立てであり、実証されたものではない。
読んだのは序章・第I部・第IIIa部まで、第II部以降の詳細は未読
- 本記事は序章と第I部「From GPT-4 to AGI」、第IIIa部「Racing to the Trillion-Dollar Cluster」の本文を確認して書いた。第II部(知能爆発の詳細な論証)・第IIIb〜IIId部(セキュリティ・アライメント・地政学)・第IV部・第V部については、目次の要約以上には読み込んでいない。
- 「2025/26年に大学卒業生を上回る」という予測が、2026年8月時点で実際に達成されたかどうかについて、本記事では客観的な検証を行っていない。第I部を読んでも、これは「発達段階のアナロジーを延長した主張」であって、定量的な達成基準が明示されているわけではないと分かった。判定自体が構造的に難しい。
- 第IIIa部が予測する「2026年ごろに10GW・1,000億ドル級の学習クラスタ」が実際に存在するかどうかについても、本記事では検証していない。
- 「27/28年までに政府主導AGIプロジェクトが立ち上がる」という予測についても、本記事執筆時点でその成否を確認する情報は持ち合わせていない。
- 著者は元OpenAI研究員であり、退職後にこのエッセイを発表した経緯がある。エッセイの主張が業界内の特定の立場を反映している可能性がある点は踏まえておく必要がある。原文自身も「誤差の範囲は大きい。データが尽きる中でアルゴリズムの進歩が期待より難しければ進歩は停滞しうるし、unhobblingがそこまで進まず、専門家並みの同僚ではなく単なる専門家チャットボットどまりになる可能性もある」と自ら幅を持たせている。
AGIの定義そのものはAGI(汎用人工知能)とは何か、同時期に近い主張をしたサム・アルトマンのエッセイはサム・アルトマンの「穏やかな特異点」論を読むを参照。
この記事は2026年8月27日時点でエッセイの公式サイト原文を確認して書いたものです。
出典・参照資料
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