Qwen3.8-Maxの重みは「Apache 2.0ではない」──売上5,000万ドル超のAIサービス事業者だけに求められる別途契約を条文で読む
Qwen3.8-Max(2.4兆パラメータ)の重みが2026年8月8日にHugging Faceで公開されたが、ライセンスはApache 2.0ではなく独自ライセンス。条文を読むと、月間ユーザー1億人超または月商2,000万ドル超のサービスにはモデル名の表示義務、Model as a ServiceまたはAI Work Assistant事業で年商5,000万ドル超の事業者には別途ライセンス取得義務が課されている。オープンウェイトの「自由に使える」という前提が、企業規模によって崩れる実例。

目次
2026年8月3日に発表された最上位モデル「Qwen3.8-Max」(発表時の記事)は、当時「重みは来週公開予定」とされていた。その予告通り、8月8日にQwen/Qwen3.8-2.4T-A95BとしてHugging Faceに重みが公開されたが、公開されたライセンスはApache 2.0ではなく独自ライセンス(license: other, license_name: qwen3.8-max)だった。条文の中身を、原文から読み解く。
3行まとめ
- Qwen3.8-Maxのライセンスは、月商2,000万ドル超でモデル名の表示義務、年商5,000万ドル超(Model as a Service・AI Work Assistant事業限定)で別途ライセンス取得義務という2条件付き
- Hugging Face APIで他のQwenモデルを確認すると、Qwen3-32B・Qwen3-235B-A22Bは
apache-2.0だが、Qwen2.5-72B-Instructはlicense: other。大規模・フラッグシップ級のモデルにだけ制限付きライセンスを課す構図は、Qwen3.8-Maxが初めてではない- 旧世代のQwen2.5-72B-Instructのライセンス条文には「月間アクティブユーザー1億人超の商用製品・サービスは、権利行使の前に別途ライセンスが必要」という、2024年9月19日付ですでに存在する類似の閾値条項があった
公開の実測(Hugging Face API、2026年8月29日再確認)
createdAt: 2026-08-08T01:50:52ZlastModified: 2026-08-12T10:24:04Z- ダウンロード数: 27,374(8月27日時点の21,340から増加)
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ライセンス条文の2つの条件
LICENSE本文(curlで全文取得・確認済み、3,390バイト)は、基本的にMITライセンスに近い緩やかな許諾(使用・複製・改変・統合・公開・配布・サブライセンス・販売・デプロイ・ファインチューン・派生物の作成が無償で許可される)を土台にしつつ、2つの条件を付けている。
条項1(表示義務): 派生物を含め、月間アクティブユーザー1億人超、または月商2,000万米ドル超の商用製品・サービスでこのモデルを使う場合、そのプロダクトのUI上に「Qwen3.8-Max」というモデル名を目立つ形で表示しなければならない。
条項2(別途ライセンス義務): ライセンシーとその関連会社が「Model as a Service」または「AI Work Assistant」事業を営んでおり、連続する12カ月間の合算売上が5,000万米ドル超になる場合、商用利用の前にQwenから別途ライセンスを取得しなければならない。ただし社内利用のみ(モデル・出力・能力を第三者に提供しない)であれば、この義務は適用されない。
条文内では、この2つの用語も定義されている。
- 「Model as a Service」: API経由やホスト型エンドポイントで、第三者が入力・パラメータ・訓練データに対して意味のある制御を行使できる形で言語モデルの推論・ファインチューニングへのアクセスを提供すること。他社がホストするモデルへのリクエストを単に中継するだけの行為は含まれない
- 「AI Work Assistant」: コーディング支援またはオフィス生産性を主目的として設計された独立系のAI製品(例としてQoder、QwenWorkが明記されている)。単機能のAIツール(翻訳ツールなど)、コーディング・オフィス生産性以外のドメイン向けAIアシスタント(例:タオバオのAIショッピングアシスタント、AMapのAIチャット)、コーディング・オフィス生産性が主目的でない製品の一機能としてのAIアシスタントは除外される
問い合わせ先としてmodel-business@notice.qwencloud.comが記載されている。
他のQwenモデルはどうなっているか
「Qwen3.8-Maxだけの特殊な話」なのかを確認するため、今回Hugging Face APIで同じQwenファミリーの他モデルのライセンスタグをcurlで調べた。
| モデル | ライセンス(Hugging Faceのタグ) |
|---|---|
| Qwen3-32B | apache-2.0 |
| Qwen3-235B-A22B | apache-2.0 |
| Qwen2.5-72B-Instruct | other(独自ライセンス) |
| Qwen3.8-2.4T-A95B(Qwen3.8-Max) | other(独自ライセンス) |
同じQwen3系でも、Qwen3-32BやQwen3-235B-A22Bのような「通常サイズ」のモデルはApache 2.0で公開されている一方、Qwen3.8-Maxのような最上位モデルには独自ライセンスが付く。この使い分け自体は今回初めて確認されたものではなく、旧世代のQwen2.5-72B-Instructにも同様に独自ライセンス(license:other)が付いていた。
Qwen2.5-72B-Instructのライセンス条文をcurlで取得して読むと、これは「Qwen LICENSE AGREEMENT」という、2024年9月19日付けで公開されたより古い正式な契約書で、Qwen3.8-Maxのシンプルな2条項とは条文の作り自体が異なる。ただし核心部分は共通しており、次の一文がある。
"If you are commercially using the Materials, and your product or service has more than 100 million monthly active users, you shall request a license from us. You cannot exercise your rights under this Agreement without our express authorization."
月間アクティブユーザー1億人超の商用製品・サービスでは、そもそも本契約の下での権利行使自体ができず、別途ライセンスの取得が必須になる。Qwen3.8-Maxの条項1(月商2,000万ドル超・MAU1億人超で「モデル名の表示義務」)とは要求される対応が異なるものの、「一定規模を超えた事業者には別枠の対応を求める」という設計思想は、少なくとも2024年9月の時点からAlibabaのフラッグシップモデルに一貫して見られる。
なぜこれが注目に値するか
「オープンウェイト」と呼ばれるモデルの多くは、Apache 2.0やMITのように、商用利用を含めてほぼ無制限に使える緩いライセンスを採用してきた。当サイトのオープンウェイトとは何かでも整理した通り、「重みが公開されている=自由に使える」という理解が一般的だ。
Qwen3.8-Maxのライセンスは、この前提に企業規模による例外を持ち込んでいる。個人開発者・スタートアップ・中小企業にとっては実質的にApache 2.0と変わらない(無償・無条件で使える)一方、月商2,000万ドル・年商5,000万ドルを超える規模の企業(特にAPI経由でモデルを提供する「Model as a Service」事業者や、コーディング・オフィス生産性向けAIアシスタント事業者)には、明確な線引きが設けられている。
事前調査の段階では「Alibabaが次期オープンソースモデルの大口利用者にレベニューシェアを求める方針(Reuters報道)」という情報もあったが、その報道自体は本記事では確認していない。ここで扱った条件はすべてHugging Face上のLICENSE原文の記載であり、報道の要約ではない。
「別途ライセンス」を実際に取った企業の実例は確認できていない
本記事はLICENSE原文とHugging Face APIメタデータのみを一次ソースとし、条文をそのまま日本語で紹介した。「別途ライセンス」を取得した企業が実際にいるか、Qwen側がこの条項をどう運用しているかという実務面の情報は、本記事の調査範囲外で確認していない。
また、今回確認したQwenファミリー内の比較は、Qwen3-32B・Qwen3-235B-A22B・Qwen2.5-72B-Instruct・Qwen3.8-Maxの4モデルのみにとどまる。Qwenシリーズには他にも多数のモデルサイズ・バリエーションがあり、「通常サイズはApache 2.0、フラッグシップは独自ライセンス」という区分けが、確認していない他のモデルにも一貫して当てはまるかどうかは検証していない。
Qwen2.5-72B-Instructのライセンス条文は6,962バイトあり、今回curlで全文取得はしたが、この記事で紹介したのは「Restrictions」節の該当条項のみで、他の条項(再配布時の表示義務、地理的制限の有無など)まではこの記事では突き合わせていない。また、上位モデルであるQwen3.8-Maxの性能ベンチマークについては発表時の記事を参照してほしい。
出典・参照資料
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