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銀行窓口係は「代替可能性が高い」側だった──野村総研リストと米国10年分の実測

野村総研×オックスフォード大学の2015年リストで「代替可能性が高い100種の職業」に実名で載っていた銀行窓口係。米労働統計局(BLS)のデータをWayback Machine経由で自分で数え直すと、米国のテラー(SOC 43-3071)は2013年の52.8万人から2023年には34.1万人へ、10年で35%減っていた。

銀行窓口係は「代替可能性が高い」側だった──野村総研リストと米国10年分の実測
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銀行の窓口で預金の出し入れをする「テラー(銀行窓口係)」は、野村総合研究所(NRI)とオックスフォード大学が2015年12月2日に発表した「代替可能性が高い100種の職業」に、実名で載っている職業のひとつだ。この記事では、原文リストにこの職業名が実際にあるかをWayback Machine経由で確認したうえで、対応する米国の職業(Tellers、SOC 43-3071)について、米労働統計局(BLS)の統計を2013年5月と2023年5月の2時点で取得し、10年間の増減を数え直した。

3行まとめ

  1. NRI原文の「代替可能性が高い100種の職業」(50音順リスト)を実際に読むと、「銀行窓口係」は確かに実名で含まれている
  2. 米国のテラー(Tellers、SOC 43-3071)は、BLSの職業別雇用統計で2013年5月の527,680人から2023年5月には340,820人へ、10年間で約35%減っていた
  3. ただし、この米国の減少がNRIの2015年判定を裏づける証拠にはならない。NRIが対象にしたのは日本の「銀行窓口係」であり、日本側の同種統計は今回のセッションでは取得できていない

NRI原文で「銀行窓口係」を確認する

野村総研とオックスフォード大学の共同研究(2015年12月2日発表)の原文は、現在の野村総研サイトからは読めなくなっている(別記事で確認済み)。Wayback Machineの保存版(2018年8月29日クロール)をcurl -sL -A "Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_15_7)"で取得し、「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」というリストの中身を最初から最後まで書き出して確認した。

このリストには、一般事務員・医療事務員・受付係・経理事務員・データ入力係・レジ係・郵便事務員といった事務・接客系の職業に加えて、「銀行窓口係」がそのまま実名で含まれている。原文の注記には「※職業名は、労働政策研究・研修機構『職務構造に関する研究』に対応」とあり、日本の職業分類に基づいて選定された職業名であることがわかる。

米国のテラーは、10年でどう動いたか

日本側の窓口係の統計は今回のセッションでは取得できていない(後述)。そこで、Frey&Osborne(2013)の702職業リストで「銀行窓口係」に相当する米国の職業「Tellers」(SOC 43-3071)について、BLSの職業別雇用統計(Occupational Employment and Wage Statistics)をWayback Machine経由で取得し、実際の雇用者数を数え直した。

Tellers(SOC 43-3071)

ページ本文の「Employment (1)」欄に記載された数字をそのまま引用している。10年間で全米のテラーの数はおよそ3分の2になった計算だ。ただし2023年時点でも34万人以上がこの職に就いており、職業そのものが消滅したわけではない。

Frey&Osborne(2013)論文そのもの(原題"The Future of Employment: How Susceptible Are Jobs to Computerisation?"、Oxford Martin School公式PDF、全79ページ)を直接確認した。表紙には「working paper」と明記されており、2013年9月17日付、Oxford Martin Programme on Technology and Employmentから発行されている。要旨(Abstract)によれば、702の職業について「ガウス過程分類器(Gaussian process classifier)」という手法を使い、計算機化される確率を推計したとされている。巻末付録の702職業ランキング表を見ると、Tellers(SOC 43-3071)は「Rank 683・確率0.98」と記載されている。702職業中683位、つまり下位20位以内(=計算機化確率が高い側の上位3%弱)に入る職業だ。同じ表のページには、レジ係(Cashiers、41-2011)が「Rank 657・確率0.97」、データ入力係(Data Entry Keyers、43-9021)が「Rank 691・確率0.99」とも記載されており、いずれもこの記事シリーズの別記事で扱った数字と一致することを、二次情報の孫引きではなく論文原本のページ画像で確認できた。

今回確認できた実測の減少幅(-35%)は、確率0.99だったテレマーケター(-65%)や電話交換手(-63%)ほど急激ではないが、確率0.97だったレジ係(-1%、ほぼ横ばい)と比べると明確に減少方向へ動いている。同じ「高確率」グループの中でも、職業によって実測のばらつきが大きいことが、この3職業を並べるだけでもわかる。

テラーの賃金と業種構成も10年で変わっている

BLSの同じページには、雇用者数だけでなく賃金と業種別の内訳も載っている。2013年5月版・2023年5月版のそれぞれの「National estimates」欄と「Industry profile」欄を数え直すと次の通りだった。

指標 2013年5月 2023年5月 変化(名目)
全米雇用者数 527,680人 340,820人 -35.4%
平均時給 $12.62 $18.68 +48.0%
平均年収 $26,260 $38,850 +47.9%
中央値年収(50%タイル) $25,390 $37,640 +48.3%

雇用者数が10年で35%減る一方、名目の平均時給・平均年収はどちらも約48%上がっている。これは消費者物価の変動を差し引いていない名目値であり、実質賃金がどう動いたかはこの記事では検証していない。

業種別の内訳も見ておく。2013年版では、テラーが最も集中している業種は「Depository Credit Intermediation(預金取扱型信用仲介業)」で482,910人、全テラーの91.5%を占めていた。2023年版では、同じ位置にある業種名が「Credit Intermediation and Related Activities (5221 and 5223 only)」に変わっており、雇用者数は326,620人、全テラーの95.8%を占めている。業種の呼称(NAICSの区分)自体が2013年版と2023年版で変わっている一方、テラーという職業が銀行等の預金取扱機関に集中している構造は10年間ほぼ変わっていない。

論文原本で確認できた3職業を一覧にすると次の通り。

職業 SOC 論文でのランク/確率 米国での実測増減(10年)
テラー(銀行窓口係) 43-3071 683位/0.98 -35.4%(2013→2023)
レジ係(Cashiers) 41-2011 657位/0.97 -1%前後(ほぼ横ばい、別記事で確認)
データ入力係 43-9021 691位/0.99 -25.7%(2013→2023、別記事で確認)

「NRIの判定が正しかった」とは言えない理由

ここで注意しておきたいのは、この記事が示せているのは「米国のテラーが10年で35%減った」という事実だけで、「NRIが2015年に日本の銀行窓口係を高リスクと判定したのは正しかった」という結論ではない、という点だ。

NRIが対象にしたのは日本国内の「銀行窓口係」という職業であり、判定の根拠になった確率もフレイ&オズボーン論文の米国データを日本の職業分類に対応づけたものである。日本の銀行窓口係が実際にこの10年でどう増減したかは、総務省統計局の職業別就業者数などを別途取得しないとわからない。今回のセッションではこの日本側データは取得できていない(後述)。

一方で、日本の銀行が窓口業務を縮小し、ATM・インターネットバンキング・キャッシュレス化を進めているという報道は日常的に目にする。この記事はそうした個別の報道を裏取りしたものではなく、あくまで「NRIの原文リストに銀行窓口係が実名で載っている」という事実と、「米国の対応する職業がこの10年で35%減った」という事実の、2つを並べて示すところまでにとどめている。

日本側の銀行窓口係の就業者数推移は確認していない

まず、日本の銀行窓口係の実際の就業者数の推移は、今回のセッションでは確認できていない。総務省統計局の労働力調査・国勢調査、あるいは全国銀行協会などの業界統計を別途取得すれば、日本側の答え合わせが可能になるはずだが、今回はそこまで手が回っていない。

次に、米国のテラーの減少要因についても、この記事はBLSの雇用者数の増減を数えただけで、その原因(ATM・オンラインバンキングの普及、店舗統廃合、人員配置の変化など)を個別に検証したものではない。AIやロボットが直接的な原因かどうかも、この記事では特定していない。

また、BLSの職業分類(SOC)は2013年から2023年の間に一部改定されている可能性がある。今回確認した43-3071(Tellers)については2013年・2023年両スナップショットで同一コードが使われていることを確認しているが、定義そのものが完全に同一かどうかまでは検証していない。なお、テラーが集中する業種側の分類(NAICS)は、2013年版の「Depository Credit Intermediation」から2023年版の「Credit Intermediation and Related Activities (5221 and 5223 only)」へ呼称が変わっており、業種区分の再編があったことは確認できたが、その再編の詳細(対象業種の追加・除外の有無)までは今回のセッションでは調べていない。

最後に、NRIのリストにある「銀行窓口係」という日本語の職業名が、具体的にどのような業務範囲を指しているか(正社員のみか、パート・派遣を含むか等)についても、この記事では確認していない。

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